☆董荼那は三国志演義に出てくるキャラの中でも、悲劇の武将の筆頭候補である。

☆蜀と戦って負け、命を救われて内通する。普通は蜀シンパの武将ということで、良い扱いをされるのが当然なのに、彼は違った。よりによって諸葛亮は孟獲を解放したのである。・・って、開放された孟獲が董荼那を殺すくらい誰でもわかるでしょうが！？
馬岱は董荼那に「丞相に命を救われながら背くとは、恥知らずめ」と言い、赤面した董荼那は撤退しているが、もし董荼那が自分の運命を知っていたとしたら、そんな悠長なことは言っていられなかっただろう。どのみち諸葛亮の手によって殺されるのである。やはり諸葛亮は粛清大魔王である。

☆・・と言いたいところだが、別に諸葛亮が特別だったわけではない。もともと中華の人たちから見て南蛮は蛮族の地だったわけで、南蛮人は中国人から人権を認められていなかった感が強い。「蛮人」という呼称自体がその現れである。なので羅貫中にしても、蛮人などどう扱っても問題ないという感覚だったのではないか。一応正義の主人公である諸葛亮でさえ、このような仕打ちを平気でする描写をするというのは、当時の読者がこの描写を当然のように理解していたからだと考えられる。時代が違えば感覚も違うが、「劉備の人肉エピソード」と「董荼那エピソード」は当時と現代で読者の受け止め方もかなり違っているのではなかろうか。だが、僕は董荼那エピソードを改善せよとか、劉備が人肉を食べるシーンを削除せよと言いたいのではない。むしろ逆である。

☆手塚氏のブラックジャック等で黒人の扱いを巡り、復刻版で削除するか否か云々という話を聞いたことがあるが、それと同質の話である。名探偵ホームズがコカイン注射する描写は現代訳でも残っている（当時のイギリスはコカインを禁止していなかった）くらいだし、このような描写は当時の習慣を伝えるものとして、たとえ人権・政治問題が絡むとしても、キチンと残してもらいたいものである。そう言う意味で、三国志演義は比較的変更点が少ない（補注がはさまれる程度）なので喜ばしいものだ。

☆南蛮編は当時の中国人の偏見に基づくものであり、南蛮人の人権を著しく貶めるものであるから、三国志から南蛮編を削除するべきである！
　・・なんてね。本当に言い出す馬鹿がいそうで怖いが。